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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)11906号 判決 1984年9月27日

原告

芹澤フサ子

被告

星野浩

主文

一  被告は、原告に対し、金三〇七万三六九〇円及びこれに対する昭和五八年二月一一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一一八三万五二二四円及びこれに対する昭和五八年二月一一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五五年三月二四日午後一一時五分ころ

(二) 場所 東京都足立区神明一丁目四番七号先路上

(三) 加害車両 普通貨物自動車(足立四〇う三九八四号)

右運転者 被告

(四) 態様 原告は、本件事故現場道路を、横断歩行中、折柄原告の左方から時速約二〇キロメートルで直進進行してきた加害車両が原告の身体左側に衝突した(以下、右事故を「本件事故」という。)。

2  原告の受傷及び治療経過

原告は、本件事故により、左肩・左膝挫傷、頸部捻挫、左肩関節拘縮等の傷害を負い、下井整形外科病院で事故当日から昭和五五年五月二三日まで(六一日間)入院治療をうけ、鈴木整形外科医院で同年五月二六日から同年六月二六日まで(三二日間、実日数二四日)通院治療を受け、更に佼成病院整形外科で同年六月二七日から昭和五八年八月五日まで(実日数六八七日)通院治療をうけ、また、その他「誠和マツサージ」で昭和五五年七月七日から同年八月四日まで(実日数九日)マツサージ治療を受け、東洋温灸院で同年六月一七日から同年七月二六日まで(実日数三日)はり灸治療を受けたが、治癒せず、現在も前記佼成病院整形外科で通院治療を継続中であるが、昭和五八年二月四日その症状は一応固定して、椎間孔の狭小の他覚所見が認められ就労に支障を来たす頸部痛の後遺障害が残り、右障害は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)施行令二条別表後遺障害別等級表第一四級に該当する。

3  責任原因

被告は加害車両を所有しこれを自己の運行の用に供していたものであるから、自賠法三条の規定に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

4  損害

(一) 治療費 金一一六万七八四八円

(1) 原告は、前記下井整形外科病院における入院治療費として金六八万七〇二〇円を要した。

(2) 原告は、前記鈴木整形外科医院における通院治療費として金二万四八八〇円を要した。

(3) 原告は、前記佼成病院整形外科における通院治療費のうち昭和五五年六月二七日から昭和五八年四月三〇日までの間の分として金三四万一四六三円を要した。なお、右治療費には症状の固定した日である昭和五八年二月四日以降の分も含まれているが、原告の症状に照らし、これも本件事故との間に因果関係が肯定されるべきである。

(4) 原告は、右佼成病院整形外科に通院中、同病院の医師の指示で大陽薬局に処方してもらつた薬代金七万四九八五円を要した。

(5) 原告は、前記東洋温灸院におけるはり・灸の治療費として金一万二五〇〇円を要した。

(6) 原告は、前記「誠和マツサージ」におけるマツサージ代として金二万七〇〇〇円を要した。

(二) 通院交通費 金一七万三五二〇円

(1) 原告は、前記鈴木整形外科医院に通院するにつき、バスを利用し一往復金三六〇円を要したので、実通院日数(二四日)分の合計は金八六四〇円となる。

(2) 原告は、前記佼成病院に通院するにつき、右同様バスを利用し一往復金二四〇円を要したので、実通院日数(六八七日)分の合計は金一六万四八八〇円となる。

(三) 引越引用 金一〇万円

原告は、昭和五五年四月二四日(足立区綾瀬から渋谷区笹塚)及び同年六月一九日(笹塚から中野区南台)の二回にわたり、事故により後記勤務先を退職したこと及び治療上の必要から住居の移転を余儀なくされたが、その際家具運搬費用として合計金一〇万円を要した。

(四) 入院雑費 金四万八八〇〇円

原告は、前記下井整形外科病院における入院治療期間(六一日)中、諸雑費として一日当たり金八〇〇円を要したので、その合計は金四万八八〇〇円となる。

(五) 通院雑費 金一七万七七五〇円

原告は、昭和五五年五月二六日から昭和五八年八月五日までの通院治療期間(実日数合計七一一日)中、一日当たり金二五〇円の雑費を要したので、その合計は金一七万七七五〇円となる。

(六) 休業損害 金五五七万六三四〇円

原告は、本件事故当時、洋品店「フレンド」に住み込み店員として勤務して月給一〇万円及び年二回各金一〇万円の賞与の所得を得ていたところ、住み込み先の住居費その他諸雑費はすべて使用者が負担していたし、原告が右勤務を継続していれば当然昇給されていた筈であるから、原告は、事故当時、少なくとも原告と同年齢(五一歳)の女子労働者の平均賃金である月額金一六万八三〇〇円の所得を得られた筈である。ところで、原告は本件事故による受傷が原因で昭和五五年五月一日前記洋品店を退職せざるを得なくなり、同日から症状固定日である昭和五八年二月四日までの三三か月と四日間休業を余儀なくされたから、前記所得額を基礎に原告の休業損害を算出すると、金五五七万六三四〇円となる。

(七) 逸失利益 金九四万八五五五円

原告は、症状固定日五四歳の女子であつたところ、本件事故により、六七歳までの一三年間労働能力を五パーセント喪失した。前記所得を基礎にライプニツツ式計算法により年五分の中間利息を控除して原告の逸失利益の症状固定日における現価を算出すると、次の計算式のとおり、金九四万八五五五円(一円未満切り捨て)となる。

計算式 (168,300×12)×0.05×9.3935=948,555

(八) 慰藉料 金六〇〇万円

原告の受傷の部位・程度、入通院治療期間、後遺障害の内容・程度、被告の不誠実な態度その他諸般の事情に照らし、原告の精神的苦痛を慰藉するための慰藉料としては、金六〇〇万円が相当である。

(九) 弁護士費用 金一二九万九二八一円

被告は、後記てん補額を除いた損害額を任意に支払わないので、やむなく原告は原告訴訟代理人に本訴の提起追行を依頼した。本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用としては金一二九万九二八一円が相当である。

(一〇) 以上の(一)~(九)の損害額を合計すると、金一五四九万二〇九四円となる。

(一一) 損害のてん補

原告は加害車両の加入する自賠責保険から、損害のてん補として、金一二〇万の支払を受けた。

(一二) 右(一〇)の金額から(一一)の金額を控除すると、残額は、金一四二九万二〇九四円となる。

5  よつて、原告は、被告に対し、右(一二)の損害額の内金一一八三万五二二四円及びこれに対する本訴状が送達された日の翌日である昭和五八年二月一一日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(四)のうち、同(四)の原告の衝突の部位は不知、その余の事実は認める。

2  同2の事実は不知。原告の治療は事故後三年にもわたつており著しく長期化しているが、原告が治療に専念せず前記下井整形外科病院に入院中も外出が多く療養態度に問題があつたことが原因を成しており、長期治療の全部が事故と因果関係のあるものではない。また、原告の訴える肩の痛みや頸部痛についても、本件事故による衝撃は比較的軽微で原告には特段の外傷もないところ、原告の症状中、エツクス線撮影により認められた椎間孔の狭小は経年性の変化であつて、事故に起因するものでないし、原告は本件事故以前から両膝にサポーターを装着しており、また五十肩も認められるのであつて、原告の症状には加齢によるものが多く、また原告は「うつ病」にも罹患しているのであつて、経年性変化に起因するものか、あるいは「うつ病」に起因する心因性の主訴とみるべきで、本件事故との因果関係はない。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実は、(一)ないし(一〇)及び(一二)はいずれも不知、同(一一)は認める。

三  抗弁

1  過失相殺

本件事故現場道路は、歩車道の区別がある総幅員九・七五メートル、片側がガードレールにより仕切られた比較的交通量の多い道路で、また衝突現場の中川(東方)寄り約四〇メートル先には信号機が設置された横断歩道がある。原告は、右横断歩道を渡ることなく、左方の右横断歩道付近に接近してくる加害車両を認めながら、両膝の上に保温用のサポーターを装着していて歩行能力が十分でなかつたにかかわらず、加害車両に背を向ける姿勢で漫然と斜め横断をしたもので、原告にも本件事故の発生につき重大な不注意があるから、原告につき四割以上の過失相殺をすべきである。

2  損害のてん補

前記自賠責保険金一二〇万円のほか、被告は、合計金三万円(見舞金名下に金二万円、交通費名下に金一万円)を原告に支払つた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。

2  同2の事実中、見舞金二万円の支払いは認め、その余は不知。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に各記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)のうち、(一)ないし(三)の事実と、(四)の事実中原告の衝突部位を除く事実、及び同3(責任原因)の事実は当事者間に争いがない。

二  事故態様及び過失相殺の抗弁について判断する。

成立に争いがない甲第三ないし第五号証、乙第六号証、及び原告被告各本人尋問の結果によると、

1  本件事故現場道路は、足立区中川(東)方面から綾瀬川(西)方面に通じる車道幅員約六・九五メートル、片側一車線で中央線(破線)が引かれたアスフアルト舗装の平坦な直線道路で、車道の北側沿いにはガードレールによつて車道と区分された幅約一・七五メートルの歩道が、また車道の南側沿いには幅約一・〇五メートルの路側帯が設置されていて、最高速度は時速三〇キロメートルに規制され、付近は商店が立ち並び街路燈によつて夜間も比較的明るい場所である。また、後記衝突地点から中川寄り約四〇メートル先の地点に信号機により交通整理の行われた交差点があり、同所には歩行者用の横断歩道が設置されている。

2  被告は、加害車両を運転して本件事故現場道路を時速約二〇キロメートルで中川方面から綾瀬川方面に向け道路左端から約三・一五メートル(運転席までの距離)の地点を走行中、対向車両(タクシー)が現場付近に停車したのに気をとられ前方注視を怠つたため、原告が自車の直前を歩行横断中であるのを約四・五五メートル先に接近して初めて発見し急ブレーキをかけたが間に合わず、自車前部を原告に衝突させた。右衝突により、加害車両は前部フロントパネルが凹損した。

3  厚告は、本件道路北側のガードレールの切れ目から道路を横断するに際し、左方を確認したところ、前記中川寄りの交差点付近に加害車両を認めたが、同車の通過前に自己が先に横断を完了することができると速断し、やや早足で以後は加害車両の動静を全く注視することなく右斜めに横断を開始し、中央線を越え加害車両進行車線のほぼ中央付近で加害車両に背を向けた姿勢で背部から衝突され、約三メートル先に転倒した。なお、原告は事故当時両膝に保温用のサポータを装着していたが、歩行能力が通常人に比し特段に劣るというものではなかつた。

以上の事実が認められ、前掲各証拠のうち右認定に反する部分は叙上認定に供した各証拠に照らし直ちに措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、被告には前方不注視の過失が認められるが、原告にも、夜間、左方に加害車両を認めながら安全を十分確認することなく漫然と斜め横断をした不注意があるから、原告につき三〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。

三  成立に争いがない甲第一、第二、第六、第七号証、第八号証の一ないし九、第九号証の一ないし三、第一一号証、乙第二ないし四号証、第八号証の一ないし四、第九号証の三、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第七号証、及び原告本人尋問の結果によれば、原告には請求原因2(原告の受傷及び治療経過)で主張するとおりの受傷内容、入通院治療経過が認められ、右認定に反する証拠はない。

四  ところで、被告は、原告は治療に専念せずその療養態度に問題があつて治療が長期化し、また肩の痛みや頸部痛は経年性変化によるものであるか、あるいは「うつ病」に起因する心因性の主訴であるとして、前記入通院治療及び後遺障害と本件事故との因果関係の存在を争うので、以下検討する。

1  前記各証拠によれば、

(一)  原告は、昭和三年六月二〇日生れの独身女子で、事故後直ちに搬送された前記下井整形外科医院で全身打撲傷兼頸椎捻挫と診断され、全身に疼痛を訴え、胸部痛による呼吸困難等の症状があつたため入院による安静加療が必要とされた。右入院中、原告には脳波検査上は異常所見なく、エツクス線撮影の結果頸体に変性変化が認められたほか骨折等の異常はなく、投薬(鎮痛剤)、温熱療法、マツサージ等の処置を受けた結果、症状も軽快し、また治療過程で限局痛(頭痛、頸部痛、左肩痛、左股関節痛、膝関節痛)が明らかとなり、昭和五五年五月二三日左上腕痛、膝関節痛、頸部痛を残して退院したこと

(二)  その後、原告は、一旦静岡県三島市内の兄のもとに身を寄せて同市内の前記鈴木整形外科医院で左肩挙上困難、左股、下肢痛、頭痛を主訴として診察を受け、左肩・左膝挫傷、頸部捻挫、左肩関節拘縮と診断され、エツクス線撮影検査(特段の異常は認められなかつた。)、薬の投与、筋肉注射のほか、頸椎電動間歇牽引、左肩部の温熱療法、徒手矯正マツサージ、バリ治療等の処置を受けたのち、転医し、東京都内に出て前記佼成病院整形外科で頭痛、頸部痛、左肩関節拘縮・疼痛を訴え、外傷性頭・頸部症候群、左外傷後肩関節拘縮と診断され、薬物療法及び理療法の治療により症状は軽快したが、治癒せず、昭和五八年二月四日症状が固定し、持続する頸部痛があり就労に支障を来たす後遺症が残つたと診断された。なお、被告代理人の照会に対する同病院医師泰江輝雄の回答によれば、同病院では昭和五八年一〇月ころから以後は主として右肩の疼痛、右肩関節の運動障害(いわゆる五十肩)の治療をしていること、また左肩については原告が時折疼痛を訴えることはあるが加齢によるものであるとの診断をしていること、その他原告は同病院神経科で「うつ病」の治療をも受けていること

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  そこでまず、原告が治療に専念しなかつたため治療が長期化したとの被告の主張について検討すると、被告本人尋問の結果中には原告が下井整形外科病院に入院中度々外出していたとの供述部分があるが、その頻度、用件、態様等の詳細な事情は明らかでないほか、原告の同病院での入院治療期間(六一日)が前記受傷内容等に照らして著しく長期化しているとも認め難く、右の一事をもつて原告が治療に専念しなかつたとの疑いを抱くことはできないし、その他前記入通院治療期間全体を通じて原告の療養態度に責められるべき点があつたことを窺わせるに足りる証拠はないから、この点に関する被告の主張は採用できない。

3  次に、被告は、原告の頸部痛及び肩の痛みは経年性変化に起因するものか、あるいは「うつ病」に起因する心因性の主訴であつて、本件事故との間に因果関係はないと主張する。しかしながら、前認定の本件事故による衝撃の程度及び原告の受傷内容は必らずしも軽微なものであると断定できないのみならず、当裁判所に顕著なむち打症の病態に照らすとその症状の軽重は一概に事故による衝撃の強度に比例するものともいえないこと、また、原告の「椎間孔の狭小」が経年性の変化か、あるいは事故によるものかについても、仮に事故前において既に経年性の変化による椎間孔の狭小があつたとしても、前記事故態様に照らしその衝撃により更にその状態が変化することは十分可能性があること、更に原告は本件事故当時両膝にサポーターを装着していたが、これも単なる冬期の保温用にすぎず、膝関節に加齢による機能障害等があつたとも認められないし、その他事故直前に原告が五十肩や「うつ病」などの特段の身体的不調を訴えていたことを認めるべき証拠もないこと、これに前記の治療経過を併せ考慮すると、原告の頸部痛、左肩の痛み等の症状は本件事故により発現し持続したもので、単に加齢のみを要因とするものでないことは明らかである。

ところで、確かに原告の症状及びこれに対する治療が全体としていささか長期化していることは否めず、これについては原告の加齢が影響しているものとみる余地がないわけではないけれども、仮にそうであるとしても、そもそも被害者は一定の年齢差や個体差を有するものであるから、その影響で呈する症状や治療期間等を区々にすることは避け難いところである。したがつて、事故との因果関係の存否については、当該被害者に医学的見地から特異な症状の発現を見ているとか治療期間が異常に長期化しているなどの特段の事情がない限り、単なる年齢差は直ちにこれを否定する事由とはならないと認めるのが相当である。これを本件についてみるに、前認定の事実関係によれば、特に前記佼成病院において原告の加齢的要因等の有無にも留意しつつ治療を続けた結果、左肩痛は事故によるものは後遺障害として残存しておらず(なお、右肩の痛みと運動機能障害(いわゆる五十肩)は事故に起因するものではなく、原告もこれを事故によるものと主張していない。)、頸部痛は事故当初の症状が軽快しつつ持続し最終的に昭和五八年二月四日固定したものであつて、その他前記特段の事情の存在を認めることはできないから、原告の前記諸症状は本件事故と因果関係のあるものと認められる。被告の主張は採用できない。

五  損害

1  治療費 金一一二万六三八五円

(1)  成立に争いがない乙第四号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は下井整形外科医院での治療費として合計金六八万七〇二〇円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2)  成立に争いがない甲第六号証によると、原告は、鈴木整形外科医院での治療費として合計金二万四八八〇円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(3)  成立に争いのない甲第七号証によると、原告は、佼成病院整形外科での治療費(昭和五五年六月二七日から昭和五八年四月三〇日までの分)として合計金三四万一四六三円を要したことが認められる(右認定に反する証拠はない。)が、症状固定日の翌日である昭和五八年二月五日以降の治療費(五十肩の治療も含む)はその治療経過等に照らし本件事故との間に因果関係を認めることはできないところ、症状固定日までの費用としては、少なくとも合計金三〇万円(全体の治療費を期間で按分(約三四分の三一)した額)を要したものと認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(4)  原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一四号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、佼成病院で通院治療中に背部痛及び頭痛の投薬を受ける際、同病院の指示(処方)で大陽薬局から薬を購入しており、その代金として合計金七万四九八五円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(5)  成立に争いのない甲第九号証の一ないし三及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、東洋温灸院でのはり・灸治療費として合計金一万二五〇〇円を要したことが認められ(右認定に反する証拠はない。)、原告の前記受傷の部位内容等からみて右治療の必要性を認めることができるから右の費用も本件事故による損害と認めるのが相当である。

(6)  成立に争いのない甲第八号証の一ないし九及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、前記佼成病院医師の賛意を得て「誠和マツサージ」でマツサージを受け、その費用合計金二万七〇〇〇円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  通院交通費 金一四万六六四〇円

(一)  原告本人尋問の結果によると、原告は、前記鈴木整形外科医院に通院するにつき交通機関としてバスを利用し一往復当たり金三六〇円のバス代を要したことが認められる(右認定に反する証拠はない。)から、前記同病院での実通院日数二四日分の合計は金八六四〇円となる。

(二)  原告本人尋問の結果によると、原告は、前記佼成病院に通院するにつき交通機関としてバスを利用し一往復当たり金二四〇円のバス代を要したことが認められる(右認定に反する証拠はない。)ところ、本件事故と因果関係のある症状固定日(昭和五八年二月四日)までの通院交通費としては、金一三万八〇〇〇円(昭和五五年六月二七日から昭和五八年八月五日までの実通院日数六八七日を期間で按分(約三七分の三一)した五七五日間分)を要したものと認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  引越費用 金一〇万円

原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一〇号証の一及び二、第一二号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、その主張のとおり引越費用金一〇万円を要したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

4  入院雑用 金四万八八〇〇円

原告は、前記下井整形外科病院に入院中、雑費として一日当たり少なくとも金八〇〇円を要したことが推認できる(右推認を左右すべき証拠はない。)から、右入院期間(六一日)中の雑費の合計は金四万八八〇〇円となる。

5  通院雑費

原告が、前記通院治療期間中通院雑費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

6  休業損害 金二五八万五三二四円

前認定のとおり原告は昭和三年六月二〇日生れの独身女子で、前記甲第一二号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、事故当時洋品店「フレンド」に住み込み店員として稼働して月額給与金一〇万円と年二回各金一〇万円の賞与を得ていたこと、住居費、光熱費、電話使用料等は雇主の負担であつたこと、右フレンドに勤務する以前の二ないし三か月間は事務職として月額約金一五万円の所得を得ていたこと(ただし雇主の好意もあつた。)、昭和五五年五月一日右「フレンド」を退職して以後は職に就かず知人からの借金や昭和五八年五月からは生活保護法による公的扶助により生計を維持していることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そこで右事実を前提に、原告の基礎収入(右退職日である昭和五五年五月一日以降の所得)について検討すると、右「フレンド」における実収入(年額金一四〇万円)は雇主において住居費等を負担しその分原告が支出を免れることを加味して決せられていることは明らかであつて、右実収入のみを基礎とすることは相当でなく、これに前の勤務先における収入及び原告と同年齢(五一歳)女子の昭和五五年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計の平均賃金が年額金二〇一万五八〇〇円であることと対比すると、原告は、右退職日以降、少なくとも月額金一三万円(年額金一五六万円)の所得を得られた筈であると認められる。

原告は、近々昇給が見込まれていたのでもあり、少なくとも女子平均賃金の月額金一六万八三〇〇円の所得があつた筈と主張するが、右所得を得られた高い蓋然性を認めるに足りる証拠はない。その他前記認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、また、原告の前記受傷状況、治療経過、原告の年齢等の諸事情に鑑みると、原告は、本件事故により、症状固定日までの間、昭和五五年五月一日から三二七日間(昭和五六年三月二三日までで、事故発生日から起算すると一年間)は一〇〇パーセント、その後の一年間(昭和五六年三月二四日から昭和五七年三月二三日まで)は五〇パーセント、その後の三一八日間(昭和五七年三月二四日から昭和五八年二月四日まで)は三〇パーセントの割合で休業を余儀なくされたものと認めるのが相当である。したがつて、原告の休業損害は、別紙計算式のとおり、金二五八万五三二四円(一円未満切り捨て)となる。

7  逸失利益 金二一万二四〇九円

原告の前記後遺障害の内容・程度、職業・年齢等の諸事情に鑑みれば、原告は、本件事故により、症状固定日から三年間、労働能力を五パーセント喪失したものと推認することができる(右推認を左右すべき証拠はない。)から、前記所得額を基礎にライプニツツ式計算法により年五分の割合の中間利息を控除して、原告の逸失利益の症状固定時における現価を算定すると、次の計算式のとおり、金二一万二四〇九円(一円未満切り捨て)となる。

計算式 1,560,000×0.05×2.7232=212,409

8  慰藉料 金一五〇万円

原告の前記受傷の部位・程度、入通院治療期間、後遺障害の内容・程度その他諸般の事情に鑑みると、原告が本件事故により被つた精神的苦痛を慰藉するための慰藉料としては、金一五〇万円が相当である。

9  以上の損害額を合計すると、金五七一万九五五八円となる。

10  過失相殺

右9の損害額につき、三〇パーセントの過失相殺をすると、金四〇〇万三六九〇円(一円未満切り捨て)となる。

11  損害のてん補

(一)  原告が、加害車両の加入する自賠責保険から損害のてん補として金一二〇万円、被告から見舞金名下に金二万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

(二)  被告本人尋問の結果によれば、被告は、原告に対し、右金額のほか金一万円を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  そこで、10の金額から右(一)及び(二)の金額を控除すると、残額は金二七七万三六九〇円となる。

12  弁護士費用 金三〇万円

本件事案の内容、難易、審理経過、認容額その他諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用としては金三〇万円が相当である。

13  そうすると、原告の損害額合計は、金三〇七万三六九〇円となる。

六  以上の次第で、原告の被告に対する本訴請求は、金三〇七万三六九〇円及びこれに対する本訴状が被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和五八年二月一一日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本久)

計算式

(一) 昭和五五年五月一日から昭和五六年三月二三日まで(三二七日間)

1,560,000÷365×327=1,397,588

(二) 昭和五六年三月二四日から昭和二七年三月二三日まで(三六五日間)

1,560,000×0.5=780,000

(三) 昭和五七年三月二四日から昭和五八年二月四日まで(三一八日間)

1,560,000÷365×318×0.3=407,736

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